たけのこを巡る冒険 その5
2013年 01月 19日
「人生に無駄なものなんかないってこと。」
大石さんは満面の笑みで語ってくださった。
「僕はいろいろな経験をしてきたけど、その結果、この機械ができたんだと思うわけ。」
大石さんの話は単純明瞭でわかりやすく、しかも、ご自分の経験に裏打ちされた自信が感じられた。
独特の節回しは遠州弁なのか?聞いていて歯切れがよい。
「もともとはJRAの馬場用にと依頼をうけたわけ。」
私も知らなかったが、馬の走る馬場に竹のチップが使用されていたのだが、
どうも竹がささくれて馬のひずめにささり、なんとかできないかという依頼だったと大石さんはいう。
チップより、砂ぐらいの細かさにならないかというのだが、他のエンジニアは竹を細かくするのは大変で時間がかかりすぎてやめたほうが良いという。
それを聞いた大石さんは逆に燃えたという。「えらい学者や理論派のエンジニアが投げ出すのなら、一丁やってみるか。」
ご自分でバギーをつくり、改造につぐ改造をしてきた大石さんにとって新たな挑戦は朝飯前といったところだったのでしょう。
「大手企業の大学出のエンジニアは旋盤やノコギリのことを机の上でしか考えないわけ。わたしは鍛冶屋の息子だったから、
常に現場で考えることがあたりまえ。何度も試行錯誤していくのが大事なのよ。」
竹をくだき、粉にするには竹の性質が問題なのだという。難しい理論は私にはわからかったが、大石さんの話では竹はそとが 固く、
中にいくほどやわらかく、芯がなく、空洞なのが厄介なのだという。ふつうの木材は外と芯との硬さの違いがかけ離れていなのだが、
竹は全く木材のそれとは違い、特殊なんだという。機械の設計もその性質を理解し、特殊な設計で作らないといけない。
なので、大石さんのように創意工夫と発想の転換のできる型破りなエンジニアにしか思いつかないことがあったのだ。その上、大石さんはバギーを改造するときにできた国際的ネッワークもあり、だれにもまねできない機械をつくったのだ。
「僕は昔から車が好きで、そこらじゅう改造して車やバギーを走らせてきたが、そのことが、とても役にたっている。この竹の粉は若いころの経験がないとできなかったものだ。」
「人生には無駄なものなんかないよ。いまの若いものにいってやりたいわけよ。」
僕はその時、この竹の粉が世の中で役立ち、人に利益をもたらしたら、大石さんのこの言葉を後世の人に伝えたいと真剣に思った。
(つづく)